3-5 分子集団研究系
物性化学研究部門
薬 師 久 彌(教授)
A -1)専門領域:物性化学
A -2)研究課題:
a) 分子導体における電荷整列相転移の研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 電荷の局在化に起因する金属・絶縁体転移では,電子の局在化に伴い,電子のいる所といない所ができるために電荷 分布に濃淡が発生する。この濃淡は通常格子の変形と結合しており,ある特定の方向に電荷が配列する電荷整列状 態をとる。この現象は分子導体の伝導電子が遍歴性と局在性の境界領域に位置しているためであり,多くの分子導 体で普遍的に起こる現象である。我々はこのような物質を振動分光法を用いて研究し,以下のような結果を得た。均 一な電荷分布をもつ状態から電荷整列状態へ電子相が変化する時,分子のもつ電荷に比例して振動数をシフトする 振動バンドが劇的に変化する。また,振電相互作用の大きな振動モードを解析することにより,整列する電荷の対称 性を知る事ができる。さらに,線形を解析することにより,遍歴的,局在的,あるいはその中間の状態を赤外・ラマン 分光法により識別できる。この方法を用いて一連の分子導体の相転移の研究を系統的に行っている。
(i)振電相互作用によるモードの分裂:B E D T -T T F 分子には二つのラマン活性なC =C 伸縮振動モードがあり,それらの振動 数は両方とも分子上の電荷(価数)に敏感であるが,振電相互作用の結合定数には大きな違いがある。電荷整列状態では 分子上の電荷の違いでモードの分裂が起こるが,この他に振電相互作用を通してさらに大きなモードの分裂が起こる。結合 定数の違いを反映して,結晶中では二つのC =C 伸縮振動の分裂の仕方は大きく異なる。本年度は4分子クラスターに振電 相互作用を取り入れた模型計算を行い,結合定数の違いによって分裂の仕方が大きく異なることを理論的に明らかにした。 これは実験結果と良くあっている。
(ii)θ-型BEDT-TTF電荷移動塩:(iia)θ-(BEDT-TTF)2TlZn(SCN)4に斜方晶系と単斜晶系の多形が存在することを見出した。 両物質とも電荷整列を伴う相転移を起こすが,斜方晶系では他の斜方晶系θ-(BEDT-TTF)2Xと同様に横縞型の電荷配列 をもつのに対し,単斜晶系の物質では斜め縞型の電荷配列をもつことを示した。斜め縞型の電荷配列が発見されたのはこ の物質が初めてである。(iib)θ-(BEDT-TTF)2Cu(CN)[N(CN)2]2はθ-型BEDT-TTF塩の相図で最もバンド幅が狭いと考えら れている。この物質も横縞型の電荷配列を示すことを明らかにした。(iic)θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4よりもバンド幅の狭い
θ-型BEDT-TTF塩の相転移点以上の電子状態は通常の金属とは異なる。ν2バンドの線形と位置からこの電子状態は電荷
がその価数を変化させながら,一つのサイトから隣のサイトへ拡散的に動いている状態であろうと考えている。
(iii)β”-型BEDT-TTF 電荷移動塩:β”-(BEDT-TTF)4M(SCN)4·H2O (M = Ni, Pd, Pt)は高圧下で超伝導を示す物質であり, 電荷整列状態と超伝導状態とが相を接している可能性のある物質群である。この型の物質の電子相を調べる目的でより単 純な構造をもつβ”-(BEDT-TTF)3(ReO4)2の相転移を赤外・ラマン分光法で調べ,局在化に伴って電荷と結合の再配列が発 生していることを明らかにした。この型の物質の相転移の機構についてはこれまで確定した説がなかったが,我々は電荷整
列を伴う相転移であることを実験的に確定した。
(iv)(DI-DCNQI)2Agの電子状態:(DI-TCNQI)2Agはウィグナー型の電荷整列状態が提唱された最初の物質である。この物
質の単結晶の偏光赤外,偏光ラマンを高圧・低温下で徹底的に調べ,この相転移は構造相転移であるとの結論を得ている。 本年度はバイブロニックバンドの理論的な研究とC =C 振動領域の赤外活性バンドの観測を行った結果,NMRと同様な電 荷の不均化がある事が分かったが,この不均化した電荷は NMR の予言する対称性と異なる電荷分布をもつ。
(v)β”-(BEDT-TTF)(TCNQ)の赤外・ラマン分光:θ-型のBEDT-TTF塩の高温相のラマンスペクトルはバンド幅に応じて系統 的に変化する。β”-(BEDT-TTF)(TCNQ)は温度を変えることによってこの系統的な赤外・ラマンスペクトルの変化を一つの物 質で再現することを見出した。温度を下げることにより実効的な移動積分が増大しすることにより,サイト間のホッピング速度 が速くなり,運動による先鋭化で説明できる線形に変化してゆくものと考えている。
B -1) 学術論文
O. DROZDOVA, K. YAKUSHI, Y. MISAKI and K. TANAKA, “Optical Study of Two-Dimensional Organic Metal (EO- TTP)2AsF6 (EO-TTP = 2-(4,5-Ethylenedioxy-1,3-Dithiol-2-Ylidene)-5-(1,3-Dithiol-2-Ylidene)-1,3,4,6-Tetrathia-Pentalene),” J. Solid State Chem. 168, 497–502 (2002).
M. MENEGHETTI, C. PECILE, K. YAKUSHI, K. YAMAMOTO, K. KANODA and K. HIRAKI, “Study of the Phase Transitions of (DI-DCNQI)2M (M = Ag, Li, Cu) through the Analysis of the Temperature Dependent Vibronic and Vibrational Infrared Absorptions,” J. Solid State Chem. 168, 632–638 (2002).
P. TOMAN, S. NESPUREK and K. YAKUSHI, “Electronic States and Infrared Spectroscopy of Nickel and Cobalt Phthalocyanines: Ab Initio Calculations for the Neutral and Cation State,” J. Porphyrins Phthalocyanines 6, 556–562 (2002). R. WOJCIECHOWSKI, K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI, M. INOKUCHI and A. KAWAMOTO, “High-Pressure Raman Study of the Charge Ordering in α-(BEDT-TTF)2I3,” Phys. Rev. B 67, 224105 (11 pages) (2003).
R. SWIETLIK, A. LAPINSKI, L. OUAHAB and K. YAKUSHI, “Charge Ordering in the κ-Phase BEDT-TTF Salts with Co(CN)6 and Fe(CN)6 Anions Studied by Infrared and Raman Spectroscopy,” C. R. Acad. Sci. (Paris) Chimie 3/6, 395–403 (2003).
I. SHIROTANI, J. HAYASHI, K. HIRANO, H. KAWAMURA, M. INOKUCHI, K. YAKUSHI and H. INOKUCHI,
“Shear Stress Effects on Electronic Spectra on the One-Dimensional Bis(diphenylglyoximato)metal(II) Complexes, M(dpg)2[M
= Ni and Pt] under High Pressure,” Proc. Japan Acad. 79, Ser B, 267 (2003).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
O. DROZDOVA, K. YAKUSHI, H. YAMOCHI, G. SAITO and D. B. TANNER, “Infrared study of the properties of the normal (metallic) phase of κ-(ET-13C4)2Cu(CN)[N(CN)2],” Synth. Met. 133-134, 119–121 (2003).
T. MIZUTANI, M. TOKUMOTO, T. KINOSHITA, J. S. BROOKS, Y. UWATOKO, O. DROZDOVA, K. YAKUSHI, I. TAMURA, H. KOBAYASHI, T. MANGETSU, J. YAMADA and K. ISHIDA, “Effect of uniaxial strain in organic superconductor κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2,” Synth. Met. 133-134, 229–231 (2003).
K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI, K. MIYAGAWA, K. KANODA, A. KAWAMOTO, J. YAMAURA and T. ENOKI,
O. DROZDOVA, K. YAKUSHI, A. OTA, H. YAMOCHI and G. SAITO, “Spectroscopic study of the [0110] charge ordering in (EDO-TTF)2PF6,” Synth. Met. 133-134, 277–279 (2003).
K. YAKUSHI, K. YAMOMOTO, J. OUYANG, M. SIMONYAN, C. NAKANO, Y. MISAKI and K. TANAKA, “Charge ordering and phase transition in θ-(BDT-TTP)2Cu(NCS)2,” Synth. Met. 133-134, 287–289 (2003).
T. YAMAMOTO, H. TAJIMA, R. KATO, M. URUICHI and K. YAKUSHI, “Thermoelectric power and Raman spectra of (Me2DCNQI)2CuxLi1–x,” Synth. Met. 133-134, 291–292 (2003).
M. URUICHI, K. YAKUSHI, T. SHIRAHATA, K. TAKAHASHI, T. MORI and T. NAKAMURA, “Characterization of quasi-1D conductors, (BDTFP)2X(PhCl)0.5 (X = PF6, AsF6),” Synth. Met. 133-134, 407–409 (2003).
K. TAKEDA, I. SHIROTANI and K. YAKUSHI, “Insulator to metal transition and electronic spectra of bis(1,2-benzoquinone dioximato)-platinum(II), Pt(bqd)2 at high pressure,” Synth. Met. 133-134, 415–416 (2003).
K. SUZUKI, K. YAMAMOTO and K. YAKUSHI, “Charge ordering in θ-(BEDT-TTF)2 TlM(SCN)4(M = Co and Zn) studied by vibrational spectroscopy,” Synth. Met. 135-136, 525–526 (2003).
K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, K. KANODA, M. MENEGHETTI and C. PECILE,
“Charge distribution and molecular arrangement in (DI-DCNQI)2Ag studied by high-pressure vibrational spectroscopy,” Synth. Met. 135-136, 563–564 (2003).
K. YAKUSHI, R. SWIETLIK, K. YAMAMOTO, T. KAWAMOTO, T. MORI, Y. MISAKI and K. TANAKA, “Charge disproportionation in the charge-transfer salts of TTP,” Synth. Met. 135-136, 583–585 (2003).
R. WOJCIECHOWSKI, K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI and A. KAWAMOTO, “Raman study of charge disproportionation in α-(BEDT-TTF)2I3,” Synth. Met. 135-136, 587–588 (2003).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本化学会関東支部幹事 (1984-1985). 日本化学会東海支部常任幹事 (1993-1994). 日本化学会職域代表 (1995- ).
日本分光学会東海支部幹事 (1997-1998). 日本分光学会東海支部支部長 (1999-2000). 学会誌編集委員
日本化学会欧文誌編集委員 (1985-1986). 学会の組織委員
第 3,4,5,6 回日中共同セミナー組織委員(第 5 回,6回,7 回は日本側代表)(1989, 1992, 1995, 1998, 2001). 第 5,6,7 回日韓共同シンポジウム組織委員(第 6回,7 回は日本側代表)(1993, 1995, 1997).
文部科学省、学術振興会等の役員等
日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員 (2000-2001). 科学研究費委員会専門委員 (2002-2003).
その他の委員
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NE D O)国際共同研究評価委員 (1990).
チバ・ガイギー科学振興財団,選考委員 (1993-1996).
東京大学物性研究所 共同利用施設専門委員会委員 (1997-1998, 2001-2002). 東京大学物性研究所 物質設計評価施設運営委員会委員 (1998-1999).
C ) 研究活動の課題と展望
現在最終段階にきているθ-型BEDT-TTF塩の電子相図に対する統一的理解を完成させるのが第一の課題である。電荷整 列に関係した課題は大きな広がりをもっているが,当面以下の三つの課題を念頭において研究を進める。①分子導体にお いて広くみられる電荷の局在性と遍歴性の中間に位置する状態を明らかにする。この中間状態はいわゆるbad metalに対応 しており,電子の整列した電子固体とフェルミ液体の中間に位置していると考えられる。この状態は電気抵抗がほとんど温 度に依存しない領域に現れ,ラマン散乱には電子密度に強い不均化のゆらぎが現れる。運動による先鋭化模型を用いた計 算では2サイト間の飛び移りの速さは10 psよりも遅いと見積もられる。相転移温度以下からの温度ジャンプ法により実時間で この速さを観測することを試みる。格子変形のダイナミクスも見えてくるかもしれないと考えている。②電荷整列状態と金属 相との境界領域にある超伝導相では電荷ゆらぎを媒介とする新しい超伝導機構の理論が提案されている。β”-(BEDT- TTF)4M(SCN)4·H2O (M = Ni, Pd, Pt)がこれらの候補となりうるので,今年度から実験を開始した。今後は常圧下の実験を
終了させるとともに,高圧力を用いてこれらの物質の電荷整列相がどのように壊れてゆくかを調べる。③電荷整列に伴う反転 対称性の破れは強誘電的な状態を引き起こすと考えられる。点電荷近似による粗い計算ではα-(BEDT-TTF)2I3の単位格子
は 1デバイ程度の永久双極子を発生する。これは電子が担う変移型の強誘電性であり,従来のイオンの変位による強誘電 性と異なる性質をもつことが期待される。今後,相転移点近傍の強誘電性ゆらぎを誘電率の実験で観測することを試みる。
中 村 敏 和(助教授)
A -1)専門領域:物性物理学
A -2)研究課題:
a) T MT T F 系の電荷秩序と基底状態研究
b)NMR による競合電子相の電荷・スピンダイナミックス c) (BEDT-TTF)2MF6系の低温電子状態
d)分子性導体における新電子相の探索
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) T MT T F 系の電荷秩序状態が近年注目されている。いくつかの塩については,X 線低温構造解析により電荷秩序配列 が提案されているが,最初に13C NMR や誘電率測定で電荷秩序の可能性が議論された八面体アニオン系(TMTTF)2 MF6塩(M = P, A s, Sb)では,電荷配列状態の詳細については明らかになっていない。我々はE S R 線幅の異方性に注目
し,T MT T F 系の電荷秩序配列が,① S bF6・A sF6・PF6塩,② R eO4・C lO4塩,③ B r・S C N 塩の3つのグループに大別でき ることを提案した(J. Phys. Soc. Jpn. 72, 213–216 (2003))。しかしながら,MF6塩では,常磁性絶縁相において一次元 鎖方向に–o–O–o–O–タイプの電荷秩序状態が起こっていると考えられるが,基底状態は S bF6塩が反強磁性なのに
対し A sF6,PF6塩ではスピン一重項であり低温まで同一の電子状態であるかは新たな問題となった。一方 UC L A の グループは13C NMR などから,電荷秩序とspin-Peierlsの共存を提案している。これらの低温基底状態近傍の電子状 態を理解するために,さらに我々はMF6塩および混晶系の E S R 線幅測定を行った。A sF6塩はスピン一重項転移前後 で線幅の異方性は変化しておらず,電荷秩序とspin-Peierlsの共存の可能性がある。一方,PF6塩はsP転移後で線幅の 異方性が変化し,–o–O–O–o– に電荷の再配列が起こっているように思われる(Synth. Met. submitted)。
b)強相関低次元電子系の低温電子状態は,物理の基本的かつ重要な問題を含有しており,非常に大きな注目を浴びて いる。NMR は微視的な観点から電荷・スピン状態にせまれる非常に強力な実験手法であり,種々の電子相における 電荷・スピンのダイナミックスは強相関系の競合電子相理解に不可欠である。以下のテーマが進行中である。① T MT T F 系の13C NMR:13C 同位体置換した一連の T MT T F 塩に対して13C NMR 測定を行っている。(T MT T F )2B r およ び(T MT T F )2S C N では,1H NMR の結果から,反強磁性相では一次元軸方向にスピンが–up–0–down–0–と配列してい ることが示され,常磁性相での電荷秩序形成が強く示唆されている。13C NMR 吸収線測定を行ったところ,常磁性相 でT MT T F 分子の不均化がおこり電荷秩序状態が起こっていることがわかった(Synth. Met. 133-134, 67–68 (2003))。 しかしながら,SC N塩ではスペクトルおよびスピン格子緩和率は必ずしも単純ではなく,またSDW 相におけるスピ ン変調の位相もB r塩と若干異なっているようである。さらに,(T MT T F )2A sF6については,低温基底状態における電 荷状態について検討を行っている。(T MT T F )2R eO4では常磁性相で2段階の相転移が報告されているが,それらの温 度領域での電荷状態について実験を行っている。②κ-(BETS)2FeBr4の強磁場 NMR:磁場誘起超伝導はπ-d相互作用 が顕著に出現した現象として非常に注目を浴びているが,現在電気抵抗など限られた物性測定しか行われていない。 その超伝導相の対称性やF F L O状態の可能性など未解決な問題が残されている。κ-(BETS)2FeBr4は,12.5 T で磁場誘 起超伝導挙動を示すことが知られており,λ型と比較して転移の磁場が低い,結晶性が圧倒的によいという利点があ る。我々は,東大物性研究所の高磁場NMR 分光器を用い,κ-(BETS)2FeBr4の77S e NMR 測定を行った。B E T S 分子のS e
核NMR によって得られた核スピン格子緩和率(1/T1)は,すでに報告されているGaC l4塩におけるそれと全く異なる 温度依存性を示し,F eのモーメントがπ電子系に顕著な影響を与えていることを示している。また,25 K 近傍で1/T1
の温度依存性に異常が観測され,相転移の可能性が示唆している。引き続き測定を行なうとともに,詳細な検討を 行っている。
c) 近年のB E D T -T T F 系やT MT T F 系の電荷秩序現象理解の進展により,種々の有機導体における電子相の再考察・再検 討 が 迫ら れ て い る 。こ れ ら の 観 点か ら 以 下 の 系に つ い て E S R お よ び静 磁 化 率 測 定を 行 っ て い る。①β-(BEDT-
TTF)2MF6(M = P, As, Sb)は室温直下での金属−絶縁体転移を示す。X線超格子構造解析やラマン分光測定からは単
純な2kF C D W 転移では説明できない異常が報告されている。我々はこの系の詳細なE S R 測定を行い,絶縁体相の電
子状態について研究を行った。E SR 積分強度から見積もったスピン磁化率は,293 K で相転移に伴う急激な減少を示 し,それより低温ではC D W 状態ではなく,ギャップをもった孤立スピン系の温度挙動を示す。E SR 線幅は,室温以上 の領域においては温度の低下とともに減少し,金属状態であることを支持している。磁化率の減少する 293 K 近傍 でE SR 線幅は急激に減少しており,スピン系のダイナミクスが大きく変化していることがわかる。180 K 以下で,E SR 線幅の異方性変化が観測された。E S R 線幅の角度依存性を測定から,低温では二次元スピン拡散的な寄与が支配的 であることが分かった。これらの事実から,この系の低温電子状態が,絶縁体化の起源は既報の通りC D W よりも電 荷分離型と思えること,面内で等方的な電荷状態になっていること,を示している。②α-(BEDT-TTF)2PF6は小さな
ギャップをもった半導体であり,B E D T -T T F ダイマーがside-by-side方向に強い相互作用がる一元的な電子構造をも つ。B E D T -T T F 系で初期に合成された系であるが,その電子状態はほとんど明らかにされていない。我々は,その詳 細を理解するために E S R および静磁化率測定を行った。スピン磁化率の温度依存性は典型的なS = 1/2 低次元磁性 体の挙動を示すが,2 K までは磁気秩序の兆候は見られない。E S R パラメーターにも明瞭な異常は観測されない。し かしながら,E S R 線幅の異方性が徐々に変化し,スピン緩和過程のクロスオーバーが起こっていることを示唆して いる。また,磁化率が極大を示す30 K 以下で,線幅も急激に減少し短距離的な磁気相関の発達を示唆している。現在 それらの起源を理解するために,詳細な測定が進行中である。
d) 分子性導体における新電子相を探索するために,興味深い新規な系に対して微視的な観点から測定を行っている。 本年度は以下のテーマについて研究が進行中である。①複合スピン系の電子状態:(B E DT -T T F )T C NQは,理研山本ら によって合成された新規の電荷移動錯体である。ドナー・アクセプターが分離積層構造を為し,それぞれのシートが スピン自由度を有する。電気抵抗は,いくつかの異常を示しながら低温まで金属的な挙動を示す。この系の B E D T - T T F 側の中心二重結合部を
13
C 同位体置換した試料に対し
13
C NMR 測定を行っている。巨視的な測定では,ドナー・ アクセプター双方の寄与を分離できないが,
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C NMR では B E D T -T T F 側の電子状態を選択的に得ることが出来る。 電気抵抗の異常が観測される温度領域で,NMR 緩和率にも異常が観測される。現在,詳細な解析を進めている。②有 機一次元ワイヤーの低温電子状態:(EDT-TTF)4BrI2(TIE)5は理研山本らによって開発された新規な系である。一次元 積層構造を為している E D T -T T F が,閉殻のテトラヨードエチレン分子にすっぽりと囲まれた極めて良好な一次元 電子系を為している。一般に一次元系の電子状態は,格子欠陥の存在のためにマクロな測定では本質的な情報を得 ることが困難である。我々は,この系の低温電子状態を微視的な観点から明らかにするためにE S R 測定を行ってい る。E S R 線幅の温度依存性から電導性について検討を行っている。
B -1) 学術論文
T. NAKAMURA, “Possible Charge Ordering Patterns of the Paramagnetic Insulating States in (TMTTF)2X,” J. Phys. Soc. Jpn. 72, 213–216 (2003).
A. ISHIKAWA, N. MATSUNAGA K. NOMURA, T. SASAKI, T. NAKAMURA, T. TAKAHASHI and G. SAITO,
“Electron Correlation and Two Dimensionality in the Spin-Density-Wave Phase of (TMTTF)2Br under Pressure,” Phys. Rev. B 67, 212404 (4 pages) (2003).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
A. ISHIKAWA, N. MATSUNAGA K. NOMURA, T. NAKAMURA, T. TAKAHASHI and G. SAITO, “Magnetic field dependence of incommensurate SDW transition in (TMTTF)2Br,” Synth. Met. 133-134, 65–66 (2003).
S. FUJIYAMA and T. NAKAMURA, “NMR Investigation of (TMTTF)2X: Charge Configurations and Spin Dynamics,” Synth. Met. 133-134, 67–68 (2003).
R. CHIBA, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, " Charge ordering in θ-(BEDT- TTF)2MZn(SCN)4 [M = Rb, Cs],” Synth. Met. 133-134, 305–306 (2003).
Y. KUBO, Y. TAKANO, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “The electronic state of α-(BEDT-TTF)2I3 under hydrostatic pressure,” Synth. Met. 133-134, 307–308 (2003).
M. URUICHI, K. YAKUSHI, T. SHIRAHATA, K. TAKAHASHI, T. MORI and T. NAKAMURA, “Characterization of quasi-1D conductors, (BDTFP)2X(PhCl)0.5 (X = PF6, AsF6),” Synth. Met. 133-134, 407–409 (2003).
T. SAKURAI, S. OKUBO, H. OHTA, R. KATO and T. NAKAMURA, “Temperature dependence millimeter wave ESR measurements of Et2Me2P[Pd(dmit)2]2,” Synth. Met. 133-134, 421–422 (2003).
T. NAKAMURA, M. TANIGUCHI, Y. MISAKI, K. TANAKA and Y. NOGAMI, “Magnetic Investigation of Itinerant and Local Hybrid Spins System, (CHTM-TTP)2TCNQ,” Synth. Met. 133-134, 441–442 (2003).
Y. KUBO, Y. TAKANO, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “13C-NMR studies of the ‘narrow gap semiconducting’ state of α-(BEDT-TTF)2I3 under pressure,” Synth. Met. 135-136, 591–592 (2003). R. CHIBA, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “Pressure Effect on the Charge Ordering in θ-(BEDT-TTF)2MZn(SCN)4 [M = Rb, Cs],” Synth. Met. 135-136, 595–596 (2003).
T. IMAKUBO, N. TAJIMA, T. SHIRAHATA, A. MIYAKE H. SAWA, T. NAKAMURA, H. OHNUKI, M. TAMURA, R. KATO, M. IZUMI, Y. NISHIO and K. KAJITA, “Crystal design of organic conductors using the iodine bond,” Synth. Met. 135-136, 601–602 (2003).
T. NAKAMURA, “ESR Investigation of Charge Localized States in (TMTTF)2X,” Synth. Met. 137, 1181–1182 (2003). S. NISHIHARA, T. AKUTAGAWA, T. HASEGAWA, T. NAKAMURA, S. FUJIYAMA and T. NAKAMURA, “Magnetic and 1H-NMR of [Ph(NH3)](18-crown-6)[Ni(dmit)2] Having Molecular Spin Ladder Structure,” Synth. Met. 137, 1279–1280 (2003).
T. NAKAMURA, “ESR study of the charge ordering in (TMTTF)2X,” Physica B 329-333, 1148–1149 (2003).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本物理学会 代議員 (2001-2003). 日本物理学会 名古屋支部委員 (2001- ).
日本化学会 実験化学講座編集委員会 委員 (2002- ). 電子スピンサイエンス学会 会誌編集委員 (2003- ).
B -8) 他大学での講義、客員
名古屋大学理学部化学科 , 「物性化学1」, 2002年 10 月−2003 年 3 月 .
C ) 研究活動の課題と展望
本グループでは,分子性導体の電子構造(磁性,電荷)を主に微視的な手法(NMR ,E S R )により明らかにしている。平成15 年度には分子スケールナノサイエンスセンター所有のB ruker E 500 E S R 分光器に,本グループで調達したクライオスタット を導入し,詳細な温度変化測定を行えるようにした。NMRは分光器3台が稼働し,さらに高圧下・極低温下といった極端条 件での測定システム構築を行っている。分子性導体における未解決な問題を理解するとともに,新奇な分子性物質の新し い電子相・新機能を探索する。
分子集団動力学研究部門
小 林 速 男(教授)
A -1)専門領域:物性分子科学
A -2)研究課題:
a) 新規な磁性有機伝導体の開発と物性 b)単一分子性金属の合成と物性
c) 分子集積体のナノ構造を利用した機能性分子システムの構築
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 磁性超伝導体の電子物性は物性物理分野の中心課題の一つとして注目を集めてきた。私達は有機伝導体に取り込ま れた局在磁気モーメントとπ金属電子の相互作用により出現する新規な磁気伝導物性を示す新らしいタイプの伝 導体の開発を目指して研究を行っている。最近欧州においても常磁性アニオンを内包した有機超伝導体や強磁性有 機分子性金属が発見されて大きな注目を集めているがこれらの系ではいずれも磁性と伝導の相互作用は無視でき る 程弱 く,磁 性伝 導 体と し ての著 しい 特 徴を 示す ものは 得 られ て いな い。一 方私 達 の見 い だした 系,例 えば ,λ- BETS2FeCl4では共同研究者によって 33 T と言う高磁場で最も安定化する磁場誘起超伝導相が発見されている。こ
の磁場誘起超伝導現象は基本的には内部磁場と外部磁場がうち消し合うJ accarino-Peter効果により出現するもので あり,F e3+の局在磁気モーメントとπ伝導電子との間に内部磁場に換算して33 T の反強磁性相互作用が働いている 事を示す直接的な証拠でもある。また初めての反強磁性有機超伝導体κ-BETS2FeBr4でも予想通り本年度共同研究 者によって見事な磁場誘起超伝導相が発見された。磁場誘起超伝導現象は無機超伝導体では希少な現象であるが構 造的に二次元超伝導体が実現しやすい磁性有機超伝導体ではかなり普遍的な現象であるように思われる。 また,最近我々が進めてきた安定有機ラジカル部位を持つπ ドナー分子による磁性有機分子性金属の開発はこれまで微結 晶試料しか得られず,困難な局面にあったが,本年度,微少結晶の構造決定が可能なX線構造解析システムを導入し,幾 つかの有機ラジカル伝導体の構造決定を行うことが出来た。安定有機ラジカルを磁性源とする磁性有機分子性金属の開 発研究は以前より試みられて来たが,従来の系ではπ伝導バンドの形成に大きな困難があった。構造研究の進展により,我々 の開発した安定有機ラジカルπ ドナー分子では通常の有機伝導体と同様な二次元π伝導層を設計し得る事が判明した。 未だ,得られた結晶のサイズや結晶性等に問題があるが,新たな磁性有機分子性金属の実現への大きな壁がクリヤーされ たものと考えられる。
b)最近,初めて単一分子Ni(tmdt)2だけで出来た金属結晶を報告した。また,Ni(tmdt)2分子は結晶中で密にパッキングし ており,3次元金属フェルミ面を持つ事が予想された。実際,昨年末に,微小結晶を用いた高磁場下の実験によって Ni(tmdt)2結晶のde Haas van A lphen(dHvA )振動が観測され,Ni(tmdt)2分子の結晶は3次元フェルミ面を持つ金属結
晶であることが厳密に証明された。分子性結晶と金属結晶の境を完全に取り除くものである。また,得られる結晶が 小さく,3次元フェルミ面を正確に決定するための充分なデーターをとることはかなり困難と思われたが,本年度 結晶の様々な方位についてdHvA 振動の測定がなされた。実験的に得られたフェルミ面の断面積は第一原理バンド 計算によって得られるフェルミ面と基本的に一致することが証明された。また拡張ヒュッケル近似のパラメターを
調節することによっても,基本的な特徴は強束縛近似バンド計算でもほぼ再現できることが判明した。この単一分 子性金属の分子設計の条件は,①HOMO,L UMOが伝導バンドを形成すると同時に充分な大きさの二次元的分子間 相互作用を持つ事,および,②分子は HOMO-L UMO gapが小さく,“ 赤外領域に電子遷移” を持つ“ 異常な分子” であ る事である。事実,Ni(tmdt)2分子や類似分子の導電性粉末結晶試料の赤外・可視スペクトルを吟味すると,金属性を 示すNi(tmdt)2分子やNi(dmdt)2分子の結晶の場合には2200 cm–1という従来(単一分子システムでは)観測されたこ
とが無いほど低エネルギー領域に電子遷移が観測された。この波長は,直ちに分子のHOMO-L UMO gapを与えるも のではないが,強束縛近似バンドによって得られるJ oint density stateの極大は吸収極大のエネルギーと良く一致し, 分子は 0.2 eV 以下という前例のない程小さな HOMO-L UMO gapを持っている事が示唆された。また,Ni(tmdt)2結晶 と同型構造を持つA u(tmdt)2結晶では100 K 近傍に常磁性金属−反強磁性金属転移が観測された。このような「高温」 で反強磁性(SD W )転移を示し,転移後も金属状態を保つ様な伝導体は従来の分子性金属では考えられず,新しいタ イプの磁性伝導体が出現しているものと推定している。
c) 近年,ナノポーラス構造を持つ分子結晶の構造特性を利用した機能性分子物質の開発が大きな注目を集めるように なった。我々はナノポーラス構造を持つ分子磁性体を開発することを目的に,例えばダイヤモンド型のネットワー クを持つフェリ磁性体 Mn3( HC OO)6を開発した。その結晶は4 × 5 Å 程度の断面積のチャネル構造を持ちチャネル 内に様々な有機分子を挿入することが出来る。また,磁気特性は挿入された分子によって系統的に変化することが 判明した。
B -1) 学術論文
W. SUZUKI, E. FUJIWARA, A. KOBAYASHI, Y. FUJISHIRO, M. TAKATA, M. SAKATA H. FUJIWARA and H. KOBAYASHI, “Highly Conducting Crystals Based on Single-Component Gold Complexes with Extended-TTF Dithiolate Ligands,” J. Am. Chem. Soc. 125, 1486–1487 (2003).
S. UJI, T. TERASHIMA, C. TERAKURA, T. YAKABE, Y. TERAI, S. YASUZUKA, Y. IMANAKA, M. TOKUMOTO, A. KOBAYASHI, F. SAKAI, H. TANAKA, H. KOBAYASHI, L. BALICAS and J. S. BROOKS, “Grobal Phase Diagram of the Magnetic Field-Induced Organic Superconductors λ-(BETS)2FexGa1–xCl4,” J. Phys. Soc. Jpn. 72, 369–373 (2003). H. FUJIWARA, H. -J. LEE, H. KOBAYASHI, E. FUJIWARA and A. KOBYASHI, “A Novel TTP Donor Containing a PROXYL Radical for Magnetic Molecular Conductors,” Chem. Lett. 32, 482–483 (2003).
A. E. KOVALEV, S. HILL, K. KAWANO, M. TAMURA, T. NAITO and H. KOBAYASHI, “Angle-Resolved Mapping of the Fermi Velocity in a Quasi-Two-Dimensional Organic Conductor,” Phys. Rev. Lett. 91, 216402 (4 pages) (2003). I. RUTEL, S. PKUNO, J. S. BROOKS, E. JOBILIOMG, H. KOBAYASHI, A. KOBAYASHI and H. TANAKA,
“Millimeter-Wave Investigation of the Antiferromagnetic Phase in λ-(BETS)2FeCl4 in High Magnetic Field,” Phys. Rev. B 68, 144435 (6 pages) (2003).
V. V. GRITSENKO, E. FUJIWARA, H. FUJIWARA, H. TANAKA, H. KOBAYASHI and O. A. DYACHENKO, “BETS- Based Molecular Conductors with Tetrahadral Anions TlCl4–, MnBr42–, CoCl42– (BETS = Bis(ethylenedithio)tetraselena fulvlene),” Russ. J. Coord. Chem. 29, 836–842 (2003).
E. I. ZHILYAEVA, O. A. BOGDANOVA, V. V. GROTSENKO, O. D. DYACHENKO, R. B. LYUBOVSKII, K. V. VAN,
H. -B. CUI, T. OTSUKA, A. KOBAYASHI, N. TAKEDA, M. ISHIKAWA, Y. MISAKI and H. KOBAYASHI, “Structural Electrical and Magnetic Properties of a Series of Molecular Conductors Based on BDT-TTP and Lanthanoid Nitrate Complex Anions (BDT-TTP = 2,5-bis(1,3-dithiol-2-ylidene)-1,3,4,6-Tetrathiapenthalene),” Inorg. Chem. 42, 6114–6122 (2003). H. -B. CUI, T. OTSYUKA, A. KOBYASHI, Y. MISAKI and H. KOBAYASHI, “Structural and Electrical Properties of Novel Molecular Conductors Based on Extended-TTF Donor BDTTTP and I– Anions,” Bull Chem. Soc. Jpn. 76, 97–102 (2003).
T. OTSUKA, H. -B. CUI, A. KOBAYASHI, Y. MISAKI and H. KOBAYASHI, “Magnetism of Metallic Molecular Crystals with Rare-Earth Complex Anions,” J. Solid State Chem. 168, 444–449 (2003).
Z. -Z. GU, H. UETSUKA, K. TAKAHASHI, R. NAKAJIMA, H. ONISHI, A. FUJISHIMA and O. SATO, “Reversible Valence Tautomerism Induced by a Single-Shot Laserpulse in a Cobalt-Iron Prussian Blue Analog,” Phys. Rev. Lett. 90, 167403 (2003).
Q. B. MENG, K. TAKAHASHI, X. T. ZHANG, I. SUTANTO, T. N. RAO, O, SATO, A. FUJISHIMA, H. WATANABE, T. NAKAMORI and URAGAMI, “Fabrication of an Efficient Solid-State Dye-Sensitized Solar Cell,” Langmuir 19, 3572– 3574 (2003).
K. TAKAHASHI, T. KAWAKAMI, Z. -Z. GU, Y. EINAGA, A. FUJISHIMA and O. SATO, “An Abrupt Spin Transition Based on Short S Center Dot Center Dot Center Dot S Contacts in a Novel Fe(II) Complex Whose Ligand Contains a 1,3- Dithiole Ring,” Chem. Commun. 2374–2375 (2003).
T. YOKOYAMA, K. TAKAHASHI and O. SATO, “Metastable Photoinduced Phase of Cu(II) Ethylenediamine Complexes Studied by X-Ray-Absorption Fine-Structure Spectroscopy,” Phys. Rev. B 67, 172104 (2003).
B -2) 国際会議のプロシ−ディングス
H. -B. CUI, T. OTSUKA, E. FUJIWARA and A. KOBAYASHI, “Syntheses and Physical Properties of New Organic Conductors with Lanthanoid Chloride Complex Anions,” Synth. Met. 135-136, 641–642 (2003).
E. FUJIWARA, A. KOBAYASHI and H. KOBAYASHI, “Structures and Physical Properties of Nickel Complexes with TTF-Type Ligands,” Synth. Met. 135-136, 535–536 (2003).
A. KOBAYASHI, W. SUZUKI, E. FUJIWARA, H. TANAKA, Y. OKANO and H. KOBYASHI, “Molecular Design and Development of Single-Component Molecular Metal,” Synth. Met. 133-134, 393–395 (2003).
T. MIZUTANI, M. TOKUMOTO, T. KINOSHITA, J. S. BROOKS, Y. UWATOKO, O. DROZDOVA, K. YAKUSHI, I. TMURA, H. KOBAYASHI, T. MANGETSU, J. YAMADA and K. ISHIDA, “Effect of Uniaxial Strain in Organic Superconductor κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2,” Synth. Met. 133-134, 229–231 (2003).
U. UJI, C. TERAKURA, T. TERASHIMA, T. YAKABE, Y. IMANAKA, T. TERAI, S. YASUZUKA, M. TOKUMOTO, F. SAKAI, A. KOBAYASHI, H. TANAKA, H. KOBAYASHI, L. BALICAS and J. S. BROOKS, “Novel Electronic Properties under Magnetic Fields in Organic Conductors λ-(BETS)2FexGa1–xCl4,” Synth. Met. 133-134, 481–483 (2003). U. UJI, C. TERAKURA, T. TERASHIMA, T. YAKABE, Y. IMANAKA, T. TERAI, S. YASUZUKA, M. TOKUMOTO, F. SAKAI, A. KOBAYASHI, H. TANAKA, H. KOBAYASHI, L. BALICAS and J. S. BROOKS, “Superconductivity in Organic Alloys λ-(BETS)2FexGa1–xCl4,” Synth. Met. 137, 1183–1185 (2003).
H. KOBAYASHI, H. TANAKA, H. FUJIWARA, T. OTSUKA, E. FUJIWARA, A. KOBAYASHI, “Interplay of Magnetism and Superconductivity in BETS Conductors (BETS = bis(ethylenedithio)tetraselenafulvalene),” Synth. Met. 137, 1157–1162 (2003).
H. KOBAYASHI, H. TANAKA, H. FUJIWARA, I. TAMURA, V. GRITSENKO, T. OTSUKA, E. FUJIWARA, A. KOBAYASHI, M. TOKUMOTO and P. CASSOUX, “Electronic Properties of BETS Superconductors with Magnetic Anions,” Synth. Met. 133-134, 447–479 (2003).
B. ZHANG, H. TANAKA, A. KOBAYASHI and H. KOBAYASHI, “Magnetoresistance Experiment of λ- BETS2Fe0.40Ga0.60Cl4,” Synth. Met. 135-136, 529–530 (2003).
A. KOBAYASHI, W. SUZUKI, E. FUJIWARA, H. TANAKA, Y. FUJISHIRO, E. NISHIBORI, M. TAKATA, M. SAKATA, Y. OKANO and H. KOBAYASHI, “Development of Single-Component Molecular Metals Based on Extended- TTF Dithiolate Ligands,” Synth. Met. 135-136, 511–513 (2003).
M. A. TANATAR, M. SUZUKI, T. ISHIGURO, H. TANAKA, H. FUJIWARA, H. KOBAYASHI, T. TOITO and J. YAMADA, “Thermal Conductivity of Organic Superconductors in Oriented Magnetic Field,” Synth. Met. 137, 1291–1293 (2003).
M. A. TANATAR, T. ISHIGURO, H. TANAKA and H. KOBAYASHI, “Thermal Conductivity of λ-(BETS)2GaCl4,” Synth.
Met. 133, 215–217 (2003).
H. FUJIWARA, E. FUJIWARA and H. KOBAYASHI, “Synthesis, Structures and Properties of New Organic Donors Connecting to TEMPO Radical through a Pyrrolidine Ring,” Synth. Met. 133-134, 359–360 (2003).
H. FUJIWARA, E. FUJIWARA and H. KOBAYASI, “Synthesis, Structures and Physical Properties of Donors Containing a PROXYL Radical,” Synth. Met. 135-136, 533–534 (2003).
H. TANAKA, H. KOBAYASHI and A. KOBAYASHI, “Structural and Physical Properties of Single-Component Molecular Conductors Based on Magnetic Metal Complexes,” Synth. Met. 135-136, 549–550 (2003).
J. S. BROOKS, K. A. STOOR, H. KOBAYASHI, H. TANAKA, A. KOBAYASHI and M. TOKUMOTO, “Novel Features of the Newly Discovered Field-Induced Superconducting Phase of λ-(BETS)2FeCl4,” Synth. Met. 133, 485–488 (2003). Y. MISAKI, Y. NATSUME, K. TAKAHASHI, H. FUENO and K. TANAKA, “Synthesis and Properties of New Extended TTP Analogs,” Synth. Met. 135, 671–672 (2003).
Y. MISAKI, K. TAKAHASHI, S. WATANABE, H. FUENO and K. TANAKA, “Synthesis and Properties of Dimeric BDT- TTP Derivatives,” Synth. Met. 137, 937–938 (2003).
S. UJI, C. TERAKURA, T. TERASHIMA, T. YAKABE, Y. TERAI, Y. IMANAKA, S. YASUZUKA, M. TOKUMOTO, F. SAKAI, A. KOBAYASHI, H. TANAKA, H. KOBAYASHI, L. BALICAS and J. S. BROOKS, “Large Anisotropy in Magnetic Field Induced Superconductors λ-(BETS)2FexGa1–xCl4,” Physica C 388-389, 611–612 (2003).
M. A. TANATAR, M. SUZUKI, T. ISHIGURO, H. FUJIWARA and H. KOBAYASHI, “Thermal Conductivity of Antiferromagnetic Organic Superconductor κ-(BETS)2FeBr4 in the Low-Field and Field-Induced Superconducting States,” Physica C 388, 613–614 (2003).
B -3) 総説、著書
小林速男, 「有機超伝導の可能性―有機超伝導体開発の最近の展開」, 超伝導の夢―超伝導研究の最前線とその未 来― , (財)未踏科学技術協会・超伝導科学技術研究会編 , 丸善 (2003).
B -4) 招待講演
H. KOBAYASHI, “Development of Single-Component Molecular Metals,” NATO Advanced Study Institute, Organic Conductors, Superconductors and Magnerts: From Synthesis to Molecular Electronics, Corfu (Greece), April–May 2003. H. KOBAYASHI, “Development and Physical Properties of Magnetic Organic Superconductors,” NATO Advanced Study Institute, Organic Conductors, Superconductors and Magnerts: From Synthesis to Molecular Electronics, Corfu (Greece), April–May 2003.
H. KOBAYASHI, “Crystal Structures and Physical Properties of Magnetic Organic Conductors Based on π Donor Molecules with Stable Organic Radical Part,” Rennes-Japan Meeting, REnnes (France), September 2003.
H. KOBAYASHI, “Molecular Design and Development of Single-Component Molecular Metals,” The 3rd International Workshop on Novel Quantum Phenomena in Transition Metal Oxides and 1st Asia-Pacific Workshop on Strongly Correlated Electron Systems, Sendai (Japan), November 2003.
B -6) 受賞、表彰
日本化学会学術賞 (1997).
B -7) 学会及び社会的活動
文部科学省、学術振興会等の役員等 学術審議会専門委員 (1999-2000).
特別研究員等審査会専門委員 (1999-2000). 学会誌編集委員
日本化学会トピックス委員 (1970-1972). 日本化学雑誌編集委員 (1981-83). 日本結晶学会誌編集委員 (1984-86). 日本化学会欧文誌編集委員 (1997-1999). J. Mater. Chem., Advisory Editorial Board (1998- ).
科学研究費の研究代表者、班長等
特定領域(B)「分子スピン制御による新機能伝導体・磁性体の構築」領域代表者 (1999-2001).
科学技術振興事業団 , 戦略的創造研究推進事業「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」,
「新規な電子機能を持つ分子ナノ構造体の構築」研究代表者 (2002- ). その他の委員
日本化学会学術賞選考委員 (1995).
東大物性研究所物質評価施設運営委員 (1996-1997). 東大物性研究所協議会委員 (1998-1999).
東大物性研究所共同利用施設専門委員会委員 (1999-2000).
C ) 研究活動の課題と展望
本研究室はこれまで物質開拓と平行して(低温)高圧の構造研究や高圧での伝導度測定の実験の展開の可能性を追求し てきたが,最近,研究室の規模を考慮し,分子物質の開拓研究に集中しようとしている。一方,1980年に有機超伝導体研究 の幕が開いてから四半世紀近くの時間が経過し,伝統的な有機伝導体の開発研究は幾分新規性が薄れ,新たな展開が必 要な時点にさしかかっているように思われる。
最近我々が見いだした幾つかの磁性有機超伝導体では,超伝導−絶縁体転移,磁場誘起超伝導,メタ磁性転移による超 伝導スイッチング現象等,従来の分子性伝導体では考えられなかった新規な磁気−伝導現象が数多く発見され,磁性有機 伝導体の研究は有機伝導体の研究領域の新しい分野として広く受け入れられるようになったのではないかと思われる。しか し勿論,研究が本格化してから未だ日も浅く,これまで発見された顕著な物性を示す磁性伝導体の例は限られている。今後,
例えば伝導電子が充分大きなスピン分極を持つ前例のない強磁性有機分子性金属や未踏の強磁性有機超伝導体などが 開発研究の大きな目標となるであろう。また,有機ラジカルスピンを磁性源とする強磁性有機分子性金属の開発も,それ自 身は10年以前から追求されてきた課題であるが,大きな進展はなされないまま止まっていた様に思われる。私達の最近の開 発研究によって漸く実現への明瞭な道筋が見いだされたのではないかと期待している。一方,分子性伝導体開発研究の長 年の目標であった単一分子だけで出来た金属結晶が実現し,研究は3次元フェルミ面の決定や単一分子性磁性金属の開 発の可能性など,新たな段階に進んでいる。今後,単一分子による「高温」強磁性金属や超伝導体の開発が次の目標にな ると思われるが,反強磁性(S D W )金属など物性的に興味深いと期待される系も最近見いだされ始めており今後の物性研 究の展開にも期待している。しかしながら,私達が最近進めているこれらの新らしい分子性伝導体の開発研究に共通する ことであるが,従来の分子性伝導体のような良質で大きな単結晶を作成することが著しく困難となり,研究進展のためにこの 点を如何に克服するかが重要な課題となって来た。また,最近本研究室でも研究を始めたナノポーラス分子物質を用いた 新規な機能物質の開発研究は急速に注目を集め,世界的流行になってきたようである。今後,大きな発展が期待できるもの と思われる。分子のナノ機能に関する研究が伝導的な物理化学的研究に比べ,「イメージ先行」的に感ぜられる状況から脱
することが出来るのではないかと期待している。